【取材】岡山かなりや学園「聴覚障害児への理解を深め、聴覚障害児のリテラシー向上へ繋げる支援を考える」

今回は児童発達支援センター 岡山かなりや学園(以下かなりや学園)の問田園長先生に、お話を伺いました。

かなりや学園は、日本で初めて認可された難聴通園施設であり、2025年には50周年を迎える歴史ある学園です。

子どもの軽度から中等度の聴覚障害は、発達障害と混同してしまうケースも多く、適切な支援になかなか繋がらないこともあります。だからこそ、保育や育児の中で「言葉が遅いな」「発音が幼いかも」などの気付きや心配事があれば、聴覚障害も視野に入れていただきたいと、仰っていました。

周りの方で聴覚障害の子がいらっしゃらない場合は、なかなか現状を知る機会はないかと思います。今回の取材では、聴覚障害の多様性や、関わり方、そして継続した支援のあり方をお話しくださいました。

全ての保護者、全ての保育者にとって、子どもとの関わり方に気付きが得られるようなお話しに感謝いたします。

岡山かなりや学園ホームページ:http://kanariya1975.com

2022 年 10 月 17 日 城本

多様的な聴覚障害に
早い段階から対応できるよう
学園を日本で最初にスタート

日本で1番はじめに厚生労働省から認可された、難聴通園施設第であるかなりや学園。

福祉が非常に充実している岡山の背景には、福祉に関する開拓者が多いことも改めて今回のお話から感じました。

「昭和30年半ば頃は、聴覚障害が軽度から中等度の子は、聾教育を受けることなく小学校に入学していました。日常的に音やことばはある程度聞こえているにもかかわらず、学習の理解が出来にくい子どもたちがいることから、軽度、中等度難聴の児童にも難聴への配慮が必要ではないかという考えのもと、内山下小学校に難聴学校が設立されたのです。 

その上で、もっと早期から教育ができていればよかったの ではないか、という発想を当時の岡山大学のお医者様たちが考えてくださり、難聴幼児専門の通園訓練機関として、昭和44年に「難聴幼児母子訓練部門」ができました。 母子訓練部門には、岡山だけではなく、いろんな地方から来られる方がいて。そうするうちに、ちゃんと認可した施設の形をつくろう!という話になり、昭和50年の4月から厚生省認可、難聴通園施設第1号となりスタートしたんです。」

「使えるものは、全て使おう」
岡山かなりや学園の理念

聴覚障害乳幼児を早期に発見し、補聴器や人工内耳を装着して聴覚を最大限に活用しつつ、保護者と共に子どものことばとこころを育てる

こちらは、かなりや学園のホームページで掲げている理念です。

耳が聞こえないといっても幅がある中で、かなりや学園が行っている支援やサポートのありかたを伺いました。

「かなりや学園の理念というのは、早くに聴覚障害を発見して、補聴器とか人工内耳という機械をつけ、聴力を最大限に活用するというのが1つ。そして、保護者と共に子どもの心と言葉を育てるというのを理念としてあげてます。

聴覚障害にまつわるドラマだと手話が多いですよね。聞こえにくい=手話、みたいな。だけど、決して手話を使う方ばかりではありません。特に小さいうちというのは、しっかり耳から言葉を聞いて、自分の口で話せるようにというのがとても大事です。決して、手話を否定しているわけではありません。しかし、耳が聞こえるお父さんお母さんから子どもが生まれて、そのお子さんが聞こえにくいという状況だとしても、「子どもにママって呼んで欲しい!」とか、「自分の知っている言葉でやりとりしたい」という気持ちは当然だと思うんです。もちろん、身振りとかジェスチャーとか手話とかも使うんですけど、それだけではなくて。それプラス音声でのやりとりもする。もう、使えるものは全て使おう。というような感じの支援をしています。」

親子で楽しく遊ぶ
愛着という気持ちを育てる
支援のありかた

「支援の具体的な方法としては、学校みたいに机で何かを勉強するのではなく、それこそまだ0歳児さんから入ってくるので、親子で楽しく遊ぶという部分がメインになります。「ぽーい!」とか「コロコロ!」とか、いろんな擬音語、擬態語が日本語はたくさん使われていますよね。そういう擬音語、擬態語をいっぱい使って子どもに話しかけるというのを、まずやっています。

あと、一番最初は愛着という気持ちを育てます。この人のことが好き、この人面白いことする!って思ったら、子どもはじーっと見てくれるので、そうしたらそこで大人が何かアクションを起こします。子どもは愛着を持ったその人の真似をしたいと思うようになります。

なんでも言葉って真似から始まりますよね。真似をして、それが繰り返し同じ場面でなされていると、「あっ!これってこういう意味なんだな。」「こういう時に使えばいいんだな!」って子ども自身が気がつくのです。それで自分の言葉になっていく、という風に進めていきます。」

問田園長先生が初めにおっしゃった、「保護者と共に子どもの心と言葉を育てる」という部分が、どのような形で取り組まれているというのかが、非常によくわかるお話しです。

保育士・幼稚園教諭等に求める
聴覚障害への理解・関わり方

聴覚障害の子は、療育は週に1〜3日などであり、普段は健常児が通う園で過ごします。

つまり、聴覚障害の子と主に関わるのは、一般的な園の保育士や幼稚園教諭等です。

この件を踏まえて、聴覚障害の子に対し、保育士や幼稚園教諭等に求める関わり方についてお話しくださいました。

「ADHDであっても、別の知的障害のお子さんであっても、その子が分かるように関わるというのは、聴覚障害のお子さんと一緒だと思うんです。できるだけ行動を止めて、顔を見える位置で、絵なりなんなりでその子が得意な何か理解しやすい手段を使って伝える。このように関わっていただくのが一番ありがたいです。

どんな研修でも「見通し」と言われますが、「これが終わったら次はこれをするよ!」とか、最初に朝の段階で「今日はコレとコレとコレを、こういう風にするよ」というのを理解してできる形にします。そして、終わるたびにその都度カードを片付けて、「次はこれだよ!」という風に、聴覚障害の場合でも伝えていくんです。」

卒園までには、
具体的に要求を

伝えられるように。
見守り支援の形

一般的な保育園や幼稚園の中で、聴覚障害の子が1人通っているケースの場合。

先生が全体に声をかけても、補聴器を外しているタイミングであったり、距離の問題などから、本人が聞こえていなかった場合もあります。

そのような場面に対し、職員が意識をとめておいた方がいいことや、関わり方について尋ねました。

「そのことに関しては、「あっ聞いてなかったんだ」っていうことを知っておいていただくだけで、見守りでいいと思います。前もって、分からないかもしれないからって全部先に一個ずつ、その子だけに教えてしまうと、自分で聞かなきゃっていう気持ちが育たないんです。もちろん年齢によって関わり方は異なりますが、ある程度見ておいていただいて、その指示を出した後「あれ?なんか分かってないぞ」とか「あれ?何か違うことしてるなって」いう時に、個別に声をかけていただくと、ありがたいですね。」

「かなりや学園も、2歳児までは保護者と同室。そして3歳児から徐々に保護者は観察室で見学するようになります。いつまでも代弁してもらったり、何かこうぼーっとしててもその都度教えてもらえる状況では、「自分の力で聞く」とか「自分で気持ちをちゃんと伝える」という力が育たず、大きくなってから困ります。少しずつ自分で聞けるようになるような環境を整える必要があります。」

問田園長先生のお話を伺ううちに、聴覚障害の子とのコミュニケーションの取り方は、非常にナチュラルなもので良いと言う印象をうけました。その中で、気を付けるポイントは愛着形成であり、心が満たされているからこそ「聞いてみよう」「何かまだ言うのかな?」という彼らの気付きに繋がっているように感じます。

「私たちが言葉としてお願いするのが見守り支援です。もちろん、先生方って子どもたちにとっては、その保育園に行った時には頼るべき方々だし、この人の言うことを聞かないといけないっていう、指導者的な部分っていうのもあります。それはきっと理解しているんだと思うんですね、ほとんどのお子さんが。だから、いつでもなんか困ったら言っていいよという関係性ができていれば、いいと思うんです。

個別支援計画では年齢に合わせ、要求を自分で伝えられるっていう初歩から、徐々に困ったことを具体的に伝えられることを目指しています。

漠然と「先生助けて!」ではなく、「ここまで分かったんだけどここが分からないんだけど教えて」「これは自分でできるけど、ここはできないからやって」など、具体的に伝えられるっていうことを卒園までには目指しているんです。」

療育施設だからこそ
アプローチできること

聴覚障害がある子も、普段は一般的な園に通っており、週の何日かを療育施設で過ごします。

療育施設だからこそアプローチできる部分があり、早期発見、早期に療育を開始する意義を感じるお話をしていただきました。

「まずは小集団のグループの中で、伝える練習をします。話し方、構文、そして言い回し。過去なのか現在なのか未来なのか、語尾が違うと言うところから教えないといけない場合や、相手によって言い方を変える必要があることを教えます。お願いするときとか、目上の人にしゃべる時・友達にしゃべるときっていうのも違うとか、そういうのを小集団とか個別の療育でひとつひとつ伝えていくんです。そして相手の気持ちっていうのをちゃんと考えるんだよっていうところも伝えていきます。聴力障害の程度によっては、どんな声の大きさで自分がしゃべっているのか、そして相手がその言葉をキツイ!と捉えちゃうのかどうかっていう事がわからないので、「もうちょっと声小さい方がいいよ」「もうちょっと優しい言い方で」っていうのは具体的に伝えます。「そういう言い方したらお友達泣いちゃうよ」とか「相手の表情も大事なんだよ」など。だからSSTもちょっと取り入れたりしています。」

SST:ソーシャルスキル・トレーニングの略で、小児の分野では「社会的スキル訓練」、教育の分野では「スキル教育」とも呼ばれます。ロールプレイなどを通して、人と関わるスキルや日常生活に必要なスキルなどの獲得を目指します。

保育園や幼稚園は大きな集団だからこそ、聴覚障害の子が学んだり気がつけることがあり、かなりや学園などの療育施設では小集団だからこそアプローチできる部分があると分かりました。

このような役割の違いや連携の必要性があることを、保育士や幼稚園教諭の方へ認知が広がることを望みます。

保護者の方への支援
子どもの変化が親を救う

「0歳児さんとか生まれてすぐ、新生児聴覚スクリーニングで聞こえにくいかもと指摘される場合。子どものことがかわいいって思える前に、障害って診断が下りてしまっている方もおられるんですね。

入園したあと、このようなケースがみられます。子どもだけポンって座らせて、離れる。お母さんが離れてしまうんです。「一緒に遊んでくださいね」とか「お膝に抱っこしてください」ってお願いすると、その時だけは抱っこするんだけど、すぐまたポンって。もう先生お願いしますという状況です。

もうそういう時には、子どもさんとしっかり関わって、子どもがすごく楽しそうに笑ったりとか、それでちょっとでも例えば「まんま」とか言えるようになってくると、お母さんも心がちょっと軽くなって。とにかく子どもを変えていくってところからスタートです。

保護者を対象とした研修会では入門講座っていうのを通して、お家でこういうことをやったらいいですよっていうのは、具体的にお伝えしています。」

親や子どもがかなりや学園で過ごす時間より、保育園や自宅ですごす時間の方が長いです。だからこそ、自宅での過ごし方が変わるよう、保護者の方へのメンタル的な部分へのケアや研修を大切にしていることが伺えました。

卒園したあとの
小学校での過ごし方
そして、継続した支援

かなりや学園は、乳幼児を対象としているため、子どもが成長すれば小学校に上がります。そこで、小学校に上がる子への援助のありかたをお聞きしました。

「まずは、こちらから、お子さんの状態を小学校側に伝え、必要な支援をお願いしております。学校側は、どういうことが必要ですか?と聞いてくださるので、お話をしたうえで、授業を見に行きます。実際に見に行くことで気がついた「あの言葉は聞こえてなかったです。」「ちょっとあの環境だとわかりにくいです。ということをお伝えします。」

教室で座る席の位置については、今はデジタル補聴援助システムっていうのがあるので、あまり前には座らないようにはしています。真ん中・真ん中より少し後ろ、先生の声はしっかり直接耳には届くので、「周りの状況が見える」「後ろの子の声も聞ける位置」のほうが良いとお伝えします。

先生がピンマイクをつけ、Bluetoothで飛ばせるデジタル補聴援助システムがあるので、昔のように「聴覚障害の子は一番前の席で固定」ということも必要なくなりました。」

いじめや偏見についての傾向についても伺いました。

「常日頃の陰湿ないじめじゃなくて、喧嘩になった時に、言い争いの中で聴覚障害のことについてガーっと言われてしまうことはあるようです。別に跳ね返せる子もいれば、いじめだけじゃなくてやっぱり学校がつらくて行けなくなった子もいて。

通常級に通うかどうかは、検査などで決められるのではなく、親御さんの希望や担任と話し合う中で考えたりしています。」

小学校、中学校、高校と進級・進学するたびに、様々な人と接する環境におかれる子も多い中、支援がずっと続くシステムが求められているかと思い、現状を尋ねてみました。

「継続した支援のシステムは、できています。保育所等訪問支援というのは、小学校まで私たちが関わる事ができます。さらに、ここで関わっている診療所は、おじいちゃん・おばあちゃんになっても、検査には来てくださります。

子どもが成長しても聴力検査や、補聴器・人工内耳の調整っていうのは定期的に来ていただいたり、20歳になったら障害者年金とか受給もここで診断作成するので、その都度「学校どう?」って話を聞いたりします。いろいろ困っていることがあったら、「じゃあ一緒に学校に言いに行こうか?」など。

私たちはこういうことを、ずっとしていたんですけど、最近国が、支援の必要性を認識し、やっと岡山県もそれに乗りましょうって手を挙げました。そして、こちらで聴覚障害児支援中核機能モデル事業をコーディネートする委託事業が、今年2022年9月にスタートしたところです。」

「8月に女子の会というのもやったんです。女子って独特な困りごとがあるんじゃないかなって。そしたら16人くらい参加者がいたんですけど。ここの卒園生って半数が地域の通常学級に行くので、同じ学校に通えないんですよね。だから、仲間がいるってまた実感できたりとか、久しぶりに会えて楽しかったってみんな言ってくれました。

親は親で別室で話をして、子どもは子どもで。岡山大学病院耳鼻咽喉科の先生から気持ちの持っていきかたや、セルフアドボカシーのこと、自分で自分のことをちゃんと理解しましょうっていう話をしてもらい、私からも少し話をさせてもらいました。定期的にやっていきたいなぁと思います。」

セルフアドボカシー:「自己権利擁護」と訳され、障害や困難のある当事者が「支援をされる対象」という受け身な存在ではなく、自立的に「支援を求めていく」能動的な存在として、理解を経ていくための活動のこと。

卒園後、卒業後の継続した支援、本人もご家族の方も心強いものだと思います。

成長後のフォローのあり方
男女による違いの傾向

「思春期で大きくなってくると、やっぱりいろんな悩みが膨らんでいって、「こんな私が恋愛をしてもいいんだろうか」とか、「結婚して生まれてきた子どもが、きこえにくかったらどうしよう」とか。もう、そういうことまでいろいろ考えるようになって、すごくつらくなる子もいるし、だから「ちゃんと付き合うまでは、自分が耳聞こえないって言えない」とかって言っている子もいるんです。

その点、男の子は結構のほほんとしている子が多くて。自分が聞こえている部分がすべてなんです。世の中には、自分が聞いている言葉や音よりももっとたくさんあるっていう認識が少ないので、就職してから困ることが多いようです。

自分が聞こえていないことを認識していないと、「何で怒られないといけんの?」とか「自分は頑張っているのに」と捉えることがあります。そこに関しては、周りが配慮するだけではなくって、本人の成長も促していかないといけないところです。

自己肯定感へのアプローチは、検査なり補聴器、人工内耳の調整なりで、別室で一人で来た時に話をするんです。そこで、「すごい頑張っているね」と。だけど、「こういうところはこういう風にしたらいいんだよって」、個別に話をするように気を付けます。親が一緒だと一言もしゃべらない男の子も、保護者の方と離れると学校のことなど喋ってくれることがあります。結構長い職員もたくさんいるので、4歳児、5歳児の担任が、中学・高校に入ってまたフォローすることができるのです。」

子どもたちにとって、里のような居場所であり、心強い存在であることが伺えました。

たくさんの方に
知っておいて欲しいこと

本日は、聴覚障害の子どもや保護者のケアのあり方、継続したサポート体制、保育者に求めることなどをお伺いしました。

その中で、当事者の方だけではなく、幅広い方に知っておいて欲しいということをお聞きしました。

「まずは、こういう施設などがあると知らない方でも、聴覚障害の方を見かけたら「あっ。聞こえにくいんだな。」とか、何かつけているっていうのは、イヤホンじゃなさそうだな、ということに気がついていただきたいです。ふざけているんじゃないっていうことを分かってもらえるだけでもいいんです。実際、補聴器をつけていて、「イヤホンはずせ」って言われた子もいるので。電車に乗るときに、放送がかかっていて、気づいてなかったら、なんか声をかけてくれるとか、そういうことを周りにいる方が知ってくださるだけで、ほんとにありがたく思います。

また、保護者の方に対しては、「言葉がちょっと遅い」「発音が幼い」など、どんなことでもいいので、心配事があれば連絡いただければ嬉しいです。発達障害を疑われた場合も、まずは事業所や医療機関で音が聞こえているか確認し、聴覚が正常だった場合は、発達障害の方の支援につなげます。

保育園や幼稚園でも、普段の園生活の中で気にある点があるようでしたら、一応聴覚の方も調べてみましょうというアナウンスは、ぜひしてください。」

早い段階での発見、早期の療育スタートにより、子どもの機能を伸ばすことや日常生活・社会生活への適応に繋がるという点。そして、そのためには発達障害を疑うケースでは聴覚障害も視野に入れるという点は、私たちも認知を広げていきたいと思います。

今回の取材の内容を読んでいただいたことで、現在身近に聴覚障害の方がいらっしゃらない方も、周囲の人に対する配慮の視点や、見え方に変化があるのではないでしょうか。

岡山かなりや学園の問田園長先生、今回は貴重なお話しをありがとうございました。